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精神の障害と労災申請

精神障害の労災認定基準の制定経過

精神の障害を負った原因が業務にあれば、労災申請を検討します。

長年にわたり、精神疾患の原因は個人に原因があると思われており、仕事が原因で、精神の障害を負う事は無いと思われてきました。
この考えは長きに渡り、大きな支持をされており、勤務期間中に精神疾患になったとしても、すべて私傷病として扱われていました。

しかし、平成3年に大手広告会社の電通で、入社後間もない社員が長時間労働により自殺する事故が起こりました。

当時の社会常識でも最初は、私傷病として扱われましたが、ご遺族が会社の安全配慮義務違反として主張し、民法上の損害賠償を求めて訴訟を起こしました。

 平成8年3月23日に東京地裁から第一藩の判決が下され、会社に損害の支払いを命じました。その後1億6,800万円で和解が成立しました。これ を経て政府は具体策を検討し、、職場におけるメンタルヘルス対策は平成18年3月31日に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」として労働安全衛生 法の裏づけのある指針になりました。

 精神の障害の労災認定基準については、平成11年9月14日付けで「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」が出され、労 災認定の為の基準が公表されました。この指針の公表後、精神障害による労災申請と認定の件数は増加し、平成21年には請求件数が1,100件を超えるまで になりました。

さらに平成23年12月26日付で「心理的負荷による精神障害の認定基準について」として正式な労災認定基準を制定しました。

精神障害の労災認定基準の特徴

精神障害の労災障害は労災の認定基準を理解したうえで進めるほうが効率的です。
同じ出来事に遭遇しても精神疾患を発症する人、発生しない人とまちまちです。職場での出来事がそのまま精神疾患の発症に繋がるのではなく、様々な要因が複 合的に絡まり精神疾患の発症に繋がります。

就業性の精神疾患はどのようにして発症するのか

職業性の精神疾患がどのようにして発症するかをNIOSH(国立労働安全衛生研究所)が作成した「職業性ストレスモデル」で説明します。 
「NIOSH職業性ストレスモデル」では、職場のストレスはそのままストレス反応を起こし、精神疾患の発症につながるのでなく、個体要因、職場以外のストレスやストレスを緩和する要因等複雑な要因が絡んでいることを表しています。 
職場で発生したストレスは、個人ごとに、ストレスに対する耐性・脆弱性の違いがあります。ストレスは職場以外でも発生していることもあり、その影響もストレ ス反応・疾病発症に影響します。一方で、ストレスを緩和する要因もあります。職場では、上司や同僚の支援等がストレスを緩和する要因です。このように職場 のストレスが労働者のストレス反応・精神疾患を引き起こすまでに多くの要因が絡んでいます。

 労災認定では職場でストレスを起こすどのような出来事があったか「職場でのストレス要因」、その出来事の後に上司や同僚の支援などストレスを和ら げる出来事「緩和要因」や長時間残業が継続する等のストレスを更に強める出来事「増強要因」を調査する必要が有ります。また職場以外のストレス要因や個人 の要因も調査することが必要になります

精神障害の労災認定基準のポイント

労災認定の為の用件は次の3つの件をすべて満たすことです。

1対象疾病を発病していること 
2発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷があること 
3業務以外の心理的負荷と固体側要因による発病ではないこと

また認定要件を満たすかの判断は次の調査項目によります。

①発病した疾病は対象疾病であるかどうか 
②発病前おおむね6ヶ月に業務による強い心理的負荷があるかどうか 
③業務以外の心理的負荷と固体側要因による発病かどうか 
④個体側要因による発病かどうか

①、②に該当するが、③、④いずれにも該当しない場合は労災に認定されます。
①、②に該当し③または④に該当する場合には労災に認定される場合とされない場合があります。

精神障害の労災申請と認定業務

労災申請手続自体は国民年金・厚生年金保険の障害年金のように複雑ではありません。
被災者は療養補償給付の請求書等で労災給付を請求するだけです。認定要件を満たすかどうかは監督署が調査確認をします。
しかし、労災認定が認められるかどうかは別で、労災か否かを決定した請求のうち認定された比率は平成18年度~22年度の実績では30%前後で推移しています。

労災申請の流れ

労災申請は労災保険の給付請求手続ですることになります。
労災保険では療養補償給付、療養請求や休業補償給付等いくつかありますが、その中で最初に行う給付請求で労災としての認定手続を行います。 労災申請をする前に精神疾患の罹息した原因と考えられる出来事を箇条書きにしてまとめ、その裏づけデータなどを準備します。

その出来事が労災認定基準に照らし、どう判断されるかも検討します。 
また、労災保険給付の請求書で、災害の原因及び発生状況を記載することになります。

請求用紙は数行しか記載が出来ないため、要領よくまとめて記載し、詳しくは別紙にまとめて提出します。原因となった出来事が整理できましたら、監督署での相談に臨みます。事前に出来事を整理しておくことで監督署の相談もスムーズになります。

認定業務

監督署は労災保険給付の請求書を受理した後に、当該請求が業務上であるか否かの判断をする業務に入ります。判断の為の情報・書類等の調査・収集は監督署が行います。

認定業務のステップは①対象疾病を発症しているかの判断②業務による心理的負荷の強度判断③業務以外の心理的負荷及び個体側要因の評価の3ステップになります。

①対象疾病を発症しているかの判断 監督署は請求人の主治医の意見書や診療録などを入手し、発症の有無、発症時期及び疾患名を特定します。

②業務による心理的負荷の強度判断 業務による心理的負荷の強度判断に当たっては、対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、発病に関与したと考えられる業務にどのような出来事があり、その後 の状況も具体的に把握して、「業務による心理的負荷評価表」を指標として、「強」「中」弱」の3段階に区分し、いずれかに判断をします。「強」と判断され た場合に、同認定基準の認定要件の「2 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」を満たすことになります。

③業務以外の心理的負荷及び個体側要因 業務以外の心理的負荷と個体側要因による発病でないことの判断を行います。業務以外の心理的負荷は対象疾患の発病前6ヶ月の間に業務以外の出来事の有無を 確認し、出来事が1つ以上確認できた場合「業務以外による心理的負荷評価表」を指標として心理的負荷の強度を「Ⅲ」「Ⅱ」「Ⅰ」に区分します。

・出来事が確認できなかった場合は業務以外の心理的負荷及び個別側要因は認められないとして取り扱います。  
・強度が「Ⅱ」または「Ⅰ」の出来事しか認められない場合は業務以外の心理的負荷及び個別側要因で発病したことが医学的に明らかであると判断できないとして取り扱います。 
・「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事のうち心理的負荷が特に強いものがある場合や「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事が複数ある場合には、それらの内容を詳細に調査のうえ、それが医学的に明らかであると判断をすることの医学的妥当性を慎重に検討し判断します。

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